最近、また小説を読むモチベーションが上がってきましたー!
どーも。
道尾秀介さんの「シャドウ」って読んだことありますか?
いやぁ、心にくる。心にぐっとくるんですよ・・・・。
道尾秀介さんの小説の中で一番好きかもしれない。
子供の視点での話が道尾秀介さんはとても上手いんですよね。
この記事では
- シャドウのあらすじ
- 登場人物と流れ
- 考察
- ネタバレ感想
について書いています。読む前、読んだ後の参考にしてもらえれば嬉しいです。
ミステリ大賞受賞作『シャドウ』
シャドウは道尾秀介さんの4作目のミステリー小説になります。
2007年に第七回本格ミステリ大賞を受賞しています。
「向日葵の咲かない夏」がとても有名な推理小説家ですね。
向日葵の咲かない夏はシャドウより前に発刊されているんですが
実は「向日葵の咲かない夏」で伝えきれなかったことを伝えたいということで執筆された「シャドウ」らしいんですよね。道尾秀介さん本人が言っていたそうです。
私はどちらも読んだのですが、シャドウの方がかなりシリアスな展開かな、って思います。
そして個人的にはシャドウの方が面白いな、って思いました。
ではシャドウはどんな話なのか?ご紹介します。
シャドウのあらすじ
小説の背表紙が一番わかりやすいので、ここはそのまま載せます。
人は死んだらどうなるの?
いなくなって、それだけなの。
その会話から三年後、凰介の母は病死した。
父と二人だけの生活が始まって数日後、幼馴染みの母親が自殺したのを皮切りに、次々と不幸が・・・。
父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てにたどり着いた驚愕の真実とは?いま最も注目される俊英が放つ、巧緻に描かれた傑作。
創元推理文庫 「シャドウ」背表紙より
登場人物と流れ
登場人物
登場人物はあまり多くありません。
我茂洋一郎(がも よういちろう)の家族と友人である水城(みずしろ)の家族がメインになります。
我茂洋一郎:主人公その1。凰介の父親。
我茂凰介:主人公その2。小学生。
我茂咲枝:洋一郎の妻。癌で亡くなる。
水城徹:洋一郎の親友。
水城恵:徹の妻。
水城亜紀:娘で凰介と同級生。
田地宗平:洋一郎と徹の恩師で精神科医。
ここから完全に内容に触れていきますので
読んだことがない人、ネタバレが嫌な人は注意してください。
この登場人物踏まえた上で全体的な流れを見てます。
- 母の葬儀から始まる
- 洋一郎は1週間仕事を休む
- 洋一郎眠れないので睡眠導入剤を飲む
- 運動会、亜紀が具合悪くなる
- 恵、徹の働いている精神科研究棟の屋上から飛び降り自殺
- 水城徹、自宅リビングのゴミ箱から精液のついたティッシュを見つける
- 亜紀が車の事故に合う 病院で腕の骨折と判断される
- 凰介の運動会でつかったハチマキがなくなる
- 亜紀、2年前から家族が壊れてること凰介に告白
- 凰介、父のパソコンで恵さんの遺書の文章ファイルを発見
- 洋一、田地からカウンセリングを受け始める
- 亜紀、我茂家に泊まりに来る
- 洋一、水城に対してお前は精神科医ではないと説教
- 凰介は田地から洋一の病気について話を聞く
- 精神科研究棟の屋上で凰介は亜紀から恵の自殺の経緯を聞く
- 田地との闘い、洋一が田地を突き落とす
- 洋一郎の種明かしの手紙
- 凰介が真相を知る
- 完
シャドウの面白さと考察
シャドウの面白さの一つが「語られる視点が2つ」ということ。
同じ時間軸を2つの視点から語っていくことで、登場人物の心理描写をより細かく描くことができる。
そしてその分、登場人物に対して感情移入が出来るのだ。
そして何よりも「シャドウ」は展開が二転三転していく。
序盤から洋一郎の様子がおかしいな、と思われる描写がいくつか出てくる。
中盤、水城に対して「お前は病気なだけ、精神科医なんかじゃなく清掃員なんだっ!」というシーンで
「そうきたか」という展開。
しかしその後ですぐに、病気なのは洋一郎で清掃員をやっているという事実が発覚する。
凰介が優しく洋一郎を抱くシーンは個人的には一番「心をえぐられるシーン」だった。
ここまでに蓄積した洋一郎の辛い現実と、凰介の父親に対する大切な気持ちと優しさを再確認させられる。
この「洋一郎は精神科医ではなく、ただの清掃員だった」という事実、とても上手く小説の中に織り込んでいる。
例えば
洋一郎は診察室のデスクの下に埃がたまっているのを見つけた。箒をもって屈みこみ、それをはき集めていると・・・・
文庫本187Pより
とある。ここに至るまでに、田地先生の講義を聞いて水城と二人で論議し合っていたことや、病院で田地先生に話しかけられたりと、どう考えても病院で精神科に務めているように見える。このようなくだりと先入観のおかげで読者には洋一郎が精神科医をしていると考えてしまうのだ。確かに序盤から「病院で精神科医をしている」という事は語られていない。小説ならではの非常に上手い叙述トリックである。
そして最後の最後には、この病気になっていることが全て演技だったという、良い意味で裏切られるオチがついている。正確には3年前の病気が再発したという演技だ。
咲枝がガンになった際に洋一郎は民間企業をやめていて、田地の進めて清掃員になったというくだりがある。
それが3年前。
そう、そもそも民間企業に勤めていたのだ。これも上手く読者を誘導している一つで、実は一度も精神科医にはなっていない。
水城との講義の思い出も、談笑していた思い出も、確かに全て田地先生の教え子時代の話であり小説で嘘は言っていないのだ。
洋一郎が精神科医を断念した理由は田地が昔担当した患者の話を聞いたのがきっかけ。咲枝との結婚も控えており、プレッシャーで国家試験を受けなかった。そして咲枝が癌になった時、「自分が国家試験を受けてお金に余裕があれば咲枝を助けられたのかも知れない」という後悔で「統合失調症」、すなわち妄想に取りつかれる。しかしこの病気は3年前に発症した際に田地のカウンセリングにより治っている。
このことがあったからこそ、田地に病気の再発という演技を信じさせることができた。そして水城にも、同期だった竹内にも、凰介にさえも演技していたのだ。
それ程、妻の咲枝が浮かばれるように、妻の復讐のために洋一郎は動いていたのだ。
普通そこまでするか?って思うかも知れないが、田地の悪事を考えると動機としては十分と言える。
そう思うと、この物語のバランスの良さは本当に絶妙だと言わざるを得ない気がする。
洋一郎の復讐劇は咲枝が亡くなり葬儀の後からすでに始まっている。そう考えると小説の頭からすでに田地への復讐は始まっていたのだ。
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ネタバレ感想
シャドウでは一度だけ、洋一郎が演技をやめた瞬間があるんじゃないかってシーンがある。
それは終盤の洋一郎の病気が再発したといわれ、凰介と亜紀が病室を訪ねたシーン。
凰介が帰り際にパッと洋一郎を観た時、
無表情だったはずの洋一郎がしっかりと凰介を見つめ、顔の横で二本の指でL字のサインをする。
ここは演技ではなく、父親として心のどこかで真実を伝えたい、伝えることが出来なくても「お父さんは大丈夫だよ」とどうしても伝えたかったんじゃなかなって思います。
とても印象に残る、人間的なシーンですね。
ラスト、洋一郎は凰介にさえ真実を教えずに生きていくのか、と思いきや凰介自身が真相にたどり着く。
洋一郎はそのことに驚いていましたが、個人的には凰介が真実を知ってこそ、この物語の本当のハッピーエンドじゃないかなって思うんですよね。
道中、つらいことが多く心が痛みますが、なんだかんだしっかりハッピーエンドな作品なんですよね。
最高に微笑ましい親と子の物語です。
まとめと評価
シャドウは、善悪や死について深く描いている作品だなと思いました。
実は昔読んだことがあって、最近改めてこの小説を読んだのですが
思った以上にとても面白い小説だなと感じました。
是非、手に取って読んで欲しい作品です。
あと話に繋がりはないですが作者の意図を考えた場合、先に「向日葵の咲かない夏」を読むというのも一つの手です。
冒頭でお話しましたが、向日葵で書けなかった伝えたいことを書いた作品が「シャドウ」になるからですね。
こちらも子供視点の書き方が面白いので、オチ抜きで楽しめる作品になっています。
是非どちらの作品も面白いので読んでみてはいかがでしょうか。
ではまた。
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