ふと米澤穂信の
「ボトルネック」
を読み返したくなり手に取り夢中で読みふけました。
何年前に読んだかも覚えていないな・・・。
そして大人になって読んで思ったこと。
なんて素晴らしい作品なんだろうか!
昔読んた時から「面白い」ってことだけは覚えていたんですけど
こんなにも辛くて、切なくて、心がえぐられる作品だったのか・・・。
米澤穂信さんの作品は本当に面白いですね。
そして今回ボトルネックを読み返して思ったことが多かったので
考察を中心に書きます。
この小説に関してはとても多くの解釈が語られているので
あくまで、個人的な解釈の一つとして受け取って頂きたい。
軽く説明しつつ、紹介していきたいと思います。
目次
米澤穂信「ボトルネック」
米澤穂信さんが2006年に出版した青春ミステリー小説。
青春ミステリーって、間違いではないんだけど
暗いSF哲学ミステリーって言った方が読んだ人には納得してもらえると思う。
聞く話によると米澤穂信さんは、1997年頃(デビュー前)からボトルネックのアイデアを持っていたらしいです。しかしまだ”自分の実力ではこのアイデアを上手く小説にすることができない”とのことで経験を積んだあと2006年に執筆されているんです。
それ程、米澤穂信さんの中でも大切な作品だったことが伺えます。
ボトルネックのあらすじ
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した・・・・・はずだった。
ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。
もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。
世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。
新潮文庫「ボトルネック」背表紙より
ボトルネック 考察
ここからさっそくネタバレになります。
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嵯峨野リョウが体験した「姉のいる世界」とはなんだったのか?
結局、リョウが体験した世界はなんだったのか?
考えられるのはこの3つ。
- パラレルワールドなのか?
- リョウが作り出した妄想だったのか?
- 夢だったのか?
これは紛れもなくパラレルワールドだったと思う。
小説の中にちゃんと答えがあって、嵯峨野リョウが崖から墜落して、別の世界に行った時にケータイを確認します。
その時に「2005年12月3日」という事が書かれています。
そして物語ラスト、現実の世界に戻ってきたリョウがポケットからケータイを取り出し確認すると
”日付は、今日が月曜日であることを示していた。”と書いてあります。
2005年12月3日は土曜日。土曜日を入れるとちょうど3日間。
つまりちゃんとパラレルワールドで時間が経過していることがわかります。
では何故パラレルワールドに行ったのか?
一つの解釈ですが、嵯峨野リョウは”死ぬ理由”が欲しかったんではないでしょうか?
嵯峨野リョウはすでに現実で生きる理由を失っていました。
恋人だったノゾミが死んでしまい、両親も最悪の状態。
しかしリョウは常に「どっちつかず」な状態です。何もかも受け入れるように努めていましたが、何もしなかった。
生きたい訳でも、死にたい訳でもない。
自分で選ぶ事をしてこなかったリョウは誰かに背中を押してもらわないと死ぬ選択すらできません。
だからこそ、自分の中でも決定的な出来事が必要になります。それがボトルネックとなること。
小説でも説明していますが、ボトルネックとはビンの首のことで水の流れを妨げる、システム全体の効率を上げる妨げとなる部分のことです。
自分がこの存在なんだと認識することで自殺する理由が出来ると考えたのではないでしょうか?
そこで死ぬ理由となる材料がそろったパラレルワールドに飛ぶことになります。
ではなんで急にそんなところに飛ぶのでしょうか?
グリーンアイドモンスター=ノゾミ
現実では花を手向けに東尋坊を訪れたリョウは「おいで、嵯峨野くん」と謎の声が聞きます。
かすれた声・・・、おそらく声の正体は諏訪ノゾミ。
そしてこの諏訪ノゾミはパラレルワールドの世界の途中で出てきた謎の子供「川守」が説明してくれた
「グリーンアイドモンスター」ではないかと思います。
「ねたみのかいぶつ。生をねたむ、死者のへんじたもの。一人でいると現れ、いろいろな方法で生きている人間の心に毒を吹き込み、死者の仲間にしようとする」
そして「小説の中で頻繁に出てくるイチョウの木の話。
地主のおばあちゃんは死んだおじいちゃんの思い出があるからとイチョウの木を切りません。大金を積まれても切りませんでした。
一方ノゾミは父親の借金のせいで家族が崩壊し、お金に余裕がなかった。お金さえあれば解決できたのかも知れない。
そして嵯峨野リョウはと言えば、現実で唯一の理解者だったノゾミが死に、家族はバラバラ。挙句には兄が死に、本当の意味で一人になっている状態。
ねたみを持って死んだノゾミ、本当の意味で一人になったリョウ、東尋坊という場所、この条件がパラレルワールドという異世界へ飛ぶ条件になったのではないでしょうか?
ボトルネックとして
前述で「ノゾミのねたみがグリーンモンスターを生み出した」と書きましたが、果たしてそうなのか。
勿論そのままの意味でノゾミが変化したものがグリーンアイドモンスターという解釈はできます。
リョウとノゾミは同じような境遇なのにノゾミだけ死んだ。リョウに対してのねたみかもしれません。
そしてとこれも一つの解釈なのですが、これら全て含めて「嵯峨野リョウの心が生み出した世界」って解釈も可能かなと思います。
小説中盤でノゾミが「夢の中にいる私を傷付けられるのは夢みたいな理由だけ」とつぶやいています。
これをリョウは「無邪気な悪意」もしくは「ねじれた狂気」のようなものと考え「夢の剣」としています。
要は全て現実から拾ったリョウの心の中の記憶が作り出した世界で、それがパラレルワールドではないのか。
「無邪気な悪意」「ねじれた狂気」というのはフミカそのものです。
ノゾミを傷付ける夢の剣はフミカ。
そしてその夢の剣を防ぐのはサキ。
パラレルワールドでは、サキがノゾミの死を防ぎます。フミカの悪意に気づき退けるからです。
このフミカの悪意から退ける役はサキでしかなりませんでした。
それはパラレルワールドの世界で自分の位置にいる人物=サキだからです。
サキの世界では自分の知っている悲しい事実が全て良い方向に転換しています。
自分のいる世界ではノゾミが死に、兄が死に、両親は仲が悪い。
サキの世界ではノゾミは明るい性格で生きている、兄も生きている、両親はラブラブ。
更にはアクセサリー屋は潰れていないし、辰川食堂のじいさんも死んでいない。
間違い探しは全てサキの世界の方が優れている。
こうした事実を突きつけられることで、リョウ自身がボトルネックとなっていることを自覚することが出来ます。
決断のできないリョウは背中を押して欲しかったのかもしれません。
ラスト、リョウはどうなったのか?
- ①崖から落ちて自殺した
- ②家に戻り生きていく
私は残念ながら「崖から落ちて自殺した」だと思います。
物語終盤、現実に戻ったリョウは再び東尋坊に戻ります。
「やっと、そういってくれたね、嵯峨野くん」とささやかれます。
これは死にたいと言ったリョウに対してノゾミ(グリーンアイドモンスター)が言った言葉でしょう。
死にたいとリョウが望んだことに対して早くこっちにこいよって意味でしょうか。
そのあとはツユからの電話。このツユはリョウに生きて欲しいと願っています。
パラレルワールドの時に話した「川守」は間違いなくこの「ツユ」と同じ存在です。
リョウが少しだけ持っていた「生きること」に対しての希望。
これが具現化したものがツユであり、川守じゃないかと。
川守は「三途の川を守る人」ってところでしょうか。対になる存在「グリーアイドモンスター」を注意しています。
そして母親からのメール。このメールをみてリョウは笑います。
この笑いは、ツユからの電話によって生まれた新しい希望が完全に打ち砕かれたことを意味しているんじゃないかと思います。
これからつらい現実だけど変われるかも知れない。
サキが言っていたように想像して行動すれば何か変わるかも知れない。
死のうと思っていたリョウにひとかけらの希望が降ってきた刹那。
「やっぱり現実ってこうじゃないか。ほらな、結局こうだよ」という諦めがついてしまったのではないか。
そのような含み笑いな気がしてなりません。
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複数の解釈
ボトルネックは、様々なところで複数の解釈ができるような節があります。
パラレルワールドなのか、夢なのか。
グリーンアイドモンスターは誰なのか
グリンアイドモンスター=ノゾミの場合、誰へのねたみなのか
川守とはなんなのか
ラスト、リョウは死んだのか
小説の中では語られていない要素が多いので色んな考察が出てきてしまいます。
ボトルネックのように、謎を残したまま結論を出さずに終わる物語を「リドルストーリー」と言います。
東野圭吾さんの「私が彼を殺した」なんかはこれにあたります。(これはしっかり読むと犯人はちゃんとわかるんですけどね)
ですので答えがない以上、読んだ人と同じ数だけ解釈があってもいいんですよね。
ボトルネックは色んな考察の仕方がありますが、結局はその作品を呼んだ人がどう感じるか、が全てだと思うので
あってるとか間違っているとか、そんなの関係なく好きに解釈して良いと思います。
どう解釈しても悲しくて心苦しい小説であることは間違いないですけどね。
ボトルネック まとめと感想
パラレルワールドの世界と、現実の世界は、ほとんどのことが同じですよね。
全てリョウの知っている範囲の話です。
登場人物も建物も全て。
だからこそ夢ともとれるし、リョウが作り出した世界、もしくはリョウの記憶の中にいるノゾミが作り出した世界とも受け取れます。
そして「グリーンアイドモンスター」のみ、パラレルワールドにて初めて出てきます。
しかし、実はリョウはグリーンアイドモンスターって知っていたんじゃないかな?って思います。
どこかで知っていて、記憶のどこかにあったからこそノゾミにあてはめたんじゃないかな?
なんて解釈もできますね。
リョウはノゾミとの関係だけは唯一確かなものだ、と感じていました。
しかし本当は誰でも良かった、その場にいた人間を投影しているだけだったという無残な事実を知ります。
事実なのか、はたまたリョウがボトルネックとなるために作り出した夢なのか。
たった一人だけ、リョウとサキの違いだけで身近な出来事が180度違うものになりました。自分の生き方と行動がこんなにも世界の姿を変えて、人の生死さえも左右する。その事実をパラレルワールドを通してリョウは体験するんです。しかも自分がボトルネックなんだと言わざるを得ないような体験。
痛い程バタフライ効果を感じる作品ですね。
ボトルネックはとてつもない人間の闇を描いたSFミステリー作品に違いありません。
ちなみにボトルネックが好きな人はリドルストーリーやバタフライ効果が見られる小説が好きだと思います。
とてもわかりやすいのは乾くるみさんの「リピート」。
これまた面白いのでオススメ。
ではでは。
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